
AMD、AI事業の急成長でも投資家は「落胆」?——ウォール街が求める『完璧』のハードル
AMDはAIチップ売上予測を上方修正したものの、株価は急落。トヨタやソニーなどの国内優良株に慣れた日本の投資家にとっても、この「好決算なのに売られる」現象は、現在のAIバブルに対する市場の厳しさを象徴しています。
「自己ベスト」では許されない過酷なレース
たとえフルマラソンで自己ベストを10分更新したとしても、コーチから「それだけか?」とため息をつかれる。今のAdvanced Micro Devices(AMD)が置かれている状況は、まさにこれに近いものです。
数字の上では、AMDの最新決算は輝かしいものでした。調整後1株当たり利益(EPS)は0.92ドルで、市場予想の0.91ドルを上回り、売上高も68.2億ドル(約1兆400億円)と、予想の67.1億ドルを突破しました。しかし、期待値が極限まで高まった今のAI市場において、「わずかな上振れ」は、日経平均採用銘柄の決算発表で「想定内」として売られるのと同様、投資家を満足させるには至りませんでした。
なぜ株価は10%も急落したのか?
決算発表後、AMDの株価は一時10.6%下落し、2023年初頭以来の最悪の続落を記録しました。保守的な運用を好む日本の投資家からすれば、増収増益でのこの反応は不可解に映るかもしれません。その理由は、市場が抱いていた「過剰な期待」と「膨らむコスト」にあります。
AMDは2024年のAIチップ(Instinct MI300)の売上見通しを、従来の45億ドルから50億ドル以上へと引き上げました。しかし、市場の「ささやき(期待値)」は60億ドル近い数字を求めていたのです。3桁成長を続けるエヌビディア(NVDA)と比較される中で、5億ドルの上方修正は、飢えた投資家にとっては「誤差」程度にしか感じられなかったようです。
さらに、研究開発(R&D)費の増大により、営業費用は19.6億ドルにまで膨らんでいます。マーケットウォッチのアナリスト、ジョーダン・ノベット氏は「上振れ幅は期待ほど強くなく、高い営業費用が決算の勢いに水を差した」と分析しています。
決算の要点:ここだけは押さえたいポイント
- AI収益の見通し: 年間のAIチップ売上目標を45億ドルから50億ドルに上方修正。
- 利益率の圧迫: 粗利益率は54%を維持したが、次世代チップ開発コストが利益を削る懸念。
- 供給の制約: リサ・スーCEOは供給不足に言及。需要があっても、製造能力(サプライチェーン)が追いつかなければ収益化には限界がある。
- PC市場の回復: パソコン向け部門は前年比29%増。ソニーのPS5向けチップなども含め、コンシューマー向け需要の底打ちが見え始めています。
なぜこれが重要なのか?
これは単なる一企業の株価の問題ではありません。AI革命全体の「体温測定」といえます。これまでの1年間、投資家は「作れば売れる」という期待先行で動いてきました。しかし今、市場は「莫大な利益を今すぐ見せろ」という実利重視のフェーズに移行しています。
AMDは現在、データセンター向けAIチップでエヌビディアに立ち向かえる唯一の対抗馬です。そのAMDが期待を大きく超えられないとなると、AIトレードの「簡単な稼ぎ時」は終わった可能性があります。マイクロソフトやメタといった巨大IT企業が巨額投資を続ける一方で、ウォール街はその投資収益率(ROI)に疑念を抱き始めています。買い手(ビッグテック)が使いすぎ、売り手(AMD)が開発費で儲からないとなれば、投資の方程式が崩れ始めるからです。
結論
AMDは過去最高のペースで疾走していますが、ウォール街はゴールラインをさらに遠くへ引き直しました。今の市場は、単なる「優等生」ではなく、「完璧な天才」であることを求めています。